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『大和名所図会』今昔めぐり ②たき坂紅葉

江戸時代の作家・秋里籬島と絵師・竹原春朝斎が奈良を訪れ、183点の絵と紀行文をまとめ、寛政3年(1791年)に刊行した『大和名所図会』。奈良県内各地の風景や社寺境内の鳥瞰図、自然や旧跡、年中行事や名産・習俗・伝承などが掲載され、奈良の魅力が盛りだくさんに紹介されています。江戸時代の作家と絵師が見た奈良の名所風景をたどり、追体験を楽しめるスポットを紹介していきます。
【参考】『大日本名所図会 第1輯 第3編 大和名所図会』(大正8年)(国立国会図書館)

2.たき坂紅葉(巻之一)(関連スポット:春日山原始林)

 

「たき坂」は、現在の奈良市高畑町付近から春日山原始林の南端を沿って、峠を越え、忍辱山~柳生へと通じる古道です。小さな滝がいくつもあるため、その名が付けられました。

 

旧柳生街道の一部であり、柳生の里と奈良をつなぐ道として、江戸時代は馬の背に荷を積んだ人々や柳生の道場へ通う武芸者らが往来しました。

 

『大和名所図会』では、滝坂は紅葉の名所として描かれています。絵の左上から、馬を引く人がこちらへ歩いてきます。その人馬と徒歩ですれ違おうとしている旅の2人がいて、そして、なんとも迷惑なことに、道の真ん中で敷物を広げ、酒宴を楽しむグループがいます。馬がそのまま進むと、蹴散らかされてしまいそうです。

 

絵の左上端に漢詩が書かれています。千里、すなわち見渡す限りのカエデの林がもやにかすみ、朝も暮れもなくひっきりなしに猿の鳴く声が聞こえるよ、と。今では、猿の声を聞くことは希少かもしれませんが、山道を歩くと、何かがこちらを見ているような視線、幽玄な気配が感じられます。

 

それにしても、絵の中の川は豊富な水量で流れています。この川は能登川でしょうか。今では小川のようにチロチロと流れるのみ。

 

滝坂の道は今もハイキング、トレッキングを楽しむ人たちが行き交います。若草山方面へ登ってもよし、柳生まで足を延ばしてもよし。夕日観音、朝日観音、首切地蔵、石窟仏といった石仏群も見どころのひとつになっています。

 

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