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奈良の名山を登る 香具山(橿原市)

古代より神聖視され、数々の歌にも詠まれた天降りの山。標高約152m、山頂まで約15分。遠足気分で登れます。

710年平城遷都まで大和国(日本)の都だった藤原京。それを守護するように東西北に座す3つの山があります。東に香具山、西に畝傍山、北に耳成山、すなわち大和三山です。このうち最も神聖視されていたのが、香具山です。

 

香具山は、天香具山、天香久山などと表記されるように、三山のなかで唯一「天」が付けられています。本記事では橿原市の表記「香具山」に従います。

 

江戸時代の名所旅行記『大和名所図会』の「天香久山」には「天降の時、二つにわかれて、片端は倭国にとどまりて天香久山といへり。片端は伊予国伊予郡にとどまり天山といふ、これなり」と記されています。

 

標高152.4m。なだらかでやさしい印象です。江戸時代の国学者・本居宣長は旅日記『菅笠日記』に「この山いと小さく低き山なれど、いにしえより名はいみじう高く聞こえて、天の下に知らぬ者なく」と書いています。

 

北麓には天香山神社、南麓には天岩戸神社、頂上には『日本書紀』で初めての神とされた国之常立神(くにのとこたちのかみ)を祀る國常立(くにとこたち)神社があり、東側一帯は県立万葉の森。「月の誕生石」「蛇つなぎ石」といった謎めく巨岩もあり、独特の霊気を感知する人もいるでしょう。

 

低い標高からもわかるように、山頂往復は容易です。片道約15分。西側の国見台跡の登山道から入ることをおすすめします。天香山神社からだと階段道が急です。夏期は蚊などの虫がまとわりついてくるので対策が必要です。

 

頂上は木立に囲まれていますが、まるで演出の利いた舞台装置のように、畝傍山と耳成山の方角だけは眺望が開けています。飛鳥時代に在位した舒明天皇が大和の国のすばらしさを詠んだ歌「大和には群山あれどとりよろふ 天の香具山登り立ち國見をすれば 國原は煙立ち立つ海原は鷗立ち立つ うまし國そ蜻蛉島大和の國は」にあるように、國見をするのも一興です。

 

舒明天皇、中大兄皇子、大伴旅人、柿本人麻呂ら、香具山は多くの和歌に詠まれていることも特徴です。なかでも、藤原京を成立させた持統天皇の「春過ぎて 夏来たるらし 白たへの 衣干したり 天香具山」は有名です。藤原京に立ち、春は桜越しに、夏はハス越しに、秋はコスモス越しに香具山を望み、古代の人々と同じロマンに浸るのもいい気分です。


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